凄過ぎ!街の鍛冶屋さん

これまで様々な業種の方を取材してきましたが、その中で特に印象深かった方を取り上げてみたいと思います。山形市内で鍛冶職人として活躍されていた宮内喜一郎さん(故人)は、鉄でならばどんな物でも作ってしまうという、凄い職人でした。普段は刃物や鍬など実用的な製品を作る一方で、世界で初めて北極と南極を徒歩で横断したことで有名な冒険家、大場満郎さんが使用する「凍らないナイフ」や、人を乗せて実際に走行できる「ミニSL」からハレーダビッドソンなどのヴィンテージバイクのエンジン部品まで、その幅広さに驚愕した覚えがあります。宮内さんが作られたモノの中でも特に印象残ったのが写真の製品です。記念にと一本譲っていただいたのですが、これ何だと思いますか・・・?これは山形城大手門を復元する際に使われた釘です。城などの文化財復元に使用する釘は、建てられた時代と同じ材料、同じ製法で作ったものでないとだめなのだそうです。「数百年後に修復や解体が行われると思うけど、その時に自分の銘が入った釘が後世の人々の目に触れるはず。それを考えるとワクワクするんだよ」と少年のように目を輝かせて話されていたのが思い出されます。本当に凄い職人さんなのに、とても話好きで多趣味な方。ご本人曰く、職人ではなくあくまでも「街の鍛冶屋さん」なのだそうです。とにかく注文があればどんなものでも請負、1つ1つ丁寧に丹精込めて仕上げていく姿は感動的で、本当にかっこいい!と思いました。もうひとつ印象に残った言葉が、「ドイツでは腕のいい職人はマイスターと呼ばれ、伝統を守っていくために国から補助金が出て次の世代の人材を育てていけるような制度が充実しています。日本には素晴らしい伝統技術が残っているのに、それを支援し保護していこうという制度が少ないのが残念でならない」との事。この言葉を聴いて、日本とドイツでのモノづくりや作り手に対する評価の違いに考えさせられるものがあったと同時に、自分で考え工夫しながら何かをつくり上げる仕事の素晴らしさを再認識したものです。

*余談ですが、試作用に作ったという取手付きの洋風デザインの蝋燭立てもいただいたのですが、東日本大震災で一晩中停電になった時に、頑丈な造りで大きな蝋燭も立てることができたため大変重宝した覚えがあります。
改めて、凄過ぎる「街の鍛冶屋さん」に感謝!です。

アートディレクター T.KUDO

*写真は、山形城大手門復元の際に使われた釘。


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