良いデザインの、その先へ


山形は、米や果物など、おいしい食材に恵まれた土地です。寒暖差のある盆地の気候や、山々から湧き出る清らかな水が、豊かな農作物を育んでいます。こうした自然の恵みに支えられた、地域ごとの食文化も山形の大きな魅力のひとつ。実際、県外の友人たちの多くが「食」を目的に山形を訪れています。

一方で、農家の方々からは、耕作放棄地の増加や担い手不足といった現場のリアルな課題を耳にすることも少なくありません。背景には、農業に対する少しネガティブなイメージがあるのかもしれません。若い世代は「洗練されたかっこよさ」を求める傾向があり、従来の農業のイメージとは距離があったのだと思います。加えて、経済的な理由も、就農に踏み出せない大きな要因となっているようです。

とはいえ近年では、サステナブルな暮らしや地元の食文化への関心が高まり、地域の産業に興味を持つ若者も増えてきました。たとえばクラフトビールやナチュールワインのように、魅力的なデザインが新しい世界観を生み出し、「関わってみたい」と思わせる“憧れ”の気持ちを育てている例もあります。一次産業においても、もっと自由に、もっとクリエイティブに。そうした魅力をしっかりと伝え、共感を得ることができれば、より良い循環が生まれていくように感じています。

FLOTではこれまで、山形の素材を活かした日本酒やワイン、ジュース、お菓子などのブランディングやパッケージデザインに数多く関わってきましたが、どんなに素晴らしい商品や活動であっても、続かなければ意味がありません。だからこそ、私たちは「楽しんで続けられるか」という視点を大切にし、その中で、作り手のモチベーションも含めて企画やデザインを考えるよう心がけています。

また、デザインには、作り手の想いや商品の魅力をきちんと伝え、その価値を高める力があります。それによって、商品の単価を上げることができれば、経済的な課題の解決にもつながります。こうした取り組みを戦略的に積み重ねていくことが、ブランディングの本質だと考えます。

デザインは、目の前の問題を解決するためだけでなく、その先にある、より大きな課題にも働きかけることができると思うのです。「良いデザイン」を目指すことに終始せず、さらに可能性を追求して、社会への影響も視野に入れる。大それたことに感じるかもしれませんが、変化の激しいいまの社会では、そうした視点がこれまで以上に求められていると感じます。

BCA / Designer  TAKANO


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